アスリート的うつ病への対策〜ジュニアアスリートについて考える〜

スポーツ

 2021年の全仏オープンで大坂なおみ選手が試合後の記者会見を拒否し、世界中でアスリートのメンタルヘルスが議論となりました。
 それを機にアスリートのメンタルヘルスの不調について注目されるようになりましたが、なかなか厳しい現状があるのかなと思います。
 私はうつ病経験者ですが、その背景はある種アスリート的なうつ病に位置づけられると思います。
 そしてそれはジュニア期の環境が大きかったので、今回はうつ病経験についてとジュニアアスリートについて考えてみたいと思います。

夫のうつ病経験

 うつ病経験を話すとはじまりは中学生から陸上競技(長距離種目)を始めたことになります。
 中学2年生から地方でそこそこの成績を残すようになり、友達との交流を控えて上を目指すことに没頭しいました。
 家族周りからのそれなりの期待も感じ、競技すること、結果を残すことがアイデンティティになっていきました。
 もともと自己肯定感が低かった私にとって、競技で成績を残すこと、練習に没頭することが自己肯定感を保つ手段でありました。
 高校進学もスポーツ推薦で競技を続けることを疑いもしませんでしたが、高校という環境の変化もあり、競技での結果が出ない日々が続く中で競技を続けるのが嫌になっていきました。
 競技を楽しめない、競技に嫌気、本音の部分でやる気が出ない、結果に結びつかない、さらに競技することに嫌気、自己嫌悪、自己肯定感が下がるという悪循環。
 この時からメンタルからくる体調不良も今思うと出始めていました(睡眠障害、自律神経失調の症状)。
 それでも競技をすることが、アイデンティティになっていた私は競技を辞めることなく、そのまま大学でも競技を続けました。
 うつ病と診断されたのは大学3年生の時です。
 責任感の強さから部のキャプテンを任され、さらに競技から逃げられない感覚と周りからのプレッシャーに耐えきれなくなりました。
 何もやる気が出ない、大学の授業に行けない、絶望感、走り出したら異常に汗が出る(自律神経失調)、不眠等明らかなうつ症状から診療内科を受診しました。
 診療内科を受診するとすぐにうつ病と診断されました。

うつ病からの回復

 抗うつ薬を半年くらい飲んでもあまり効果が出ず、なかなか診療内科の先生に対しても信頼できない(悩みをわかってもらえない感じ)があり、うつ症状の回復もなかなか進まず。
 そんな中、心理学の本などからメンタルケアの方法を探り、ライティング(筆記)による感情の掃き出し、認知のゆがみの修正(自分に適性な認知を馴染ませる→「他人は他人、自分は自分」(外的評価から分離して自己肯定する考え)という言葉を紙に書き続ける)を行い症状が改善していきました。


 競技としての捉え方しかしていなかった走るということに対しても瞑想の考えを取り入れることでメンタルケアとなることに気づき、うつ症状が回復してからの陸上競技への向かい合い方もポジティブになりました。
 相変わらず市民ランナーとして競技に向き合っていますが(競技することがやはりアイデンティティを保つことに他ならないのは変わりない)、競技が全てという自分を追い込む考え方から柔軟な考えを持てるようになったことで、アスリートとしてのメンタルヘルスとしてはある程度健全性を保ててるのかなと思います。

心配されるジュニアアスリートのメンタル

 アスリートの場合は、周りから評価をされる機会が多く、それが直接自己肯定感に影響することが多いと思います(元来自己肯定感が低かった私が競技を始めて、競技結果と自己肯定感を結びつけてしまったように)。
 成長期には自分の中で何が重要なのかや、自分の中でどんな人になりたいのかというのを落ち着いて考える時間が大事と言われていますが、成長期に競技に没頭してしまうとそういった機会を与ることが難しくなると思います。
 さらに自己肯定感、自尊心を育てるためには、いろいろ経験したり、いろいろな価値観の人と交流したり、視野を広げることが大切と言われますが、早い時期にこの競技で生きていく!この競技が自分の全てだ!と錯覚してしまうとそういった機会も得られなくなります。
 自分の中にある自己肯定の軸が1本しかないような状態で、それが競技の結果という不安なもので支えられているという非常に危ない状況になってしまいます。
 自己実現という意味での成長を楽しむのがスポーツのはずなのに、自己肯定感を満たすための夢や目標設定(周りの期待を感じて設定してしまったもの)になってしまうと夫のように苦しむことになってしまうのかなと思います。
 限られた地方での活躍でそういったメンタルになってしまった私と比べて、全国大会や世界大会で活躍するジュニアアスリートへの外的評価のメンタルへの影響は想像を絶します。

ジュニアアスリートを取り巻く大人の在り方

 ジュニアアスリートにとっては、サポートしてくれる大人がたくさんいて、そうした大人の影響が非常に大きいものです。
 そういった大人達に間接的にでも追い込まれる状況はつらいものです。
 私も競技の結果が出なくなって自分の想いと状況が食い違い始めた高校時代(陸上競技を辞めたいな、他にやりたいことがあるはずと葛藤していた時期)に部活の先生からの理解を得られなかったこと、もっと頑張れ、意識が低いと指導された時は非常に辛かったです。
 うちには小さい子供が2人(4歳、2歳)がいますが、子育ての中でスポーツに限らず子供が外的評価にとらわれすぎていないか、内的評価による自己肯定感が育まれているか注意するようにしようと話しています(まだ2人とも小さいので、より注意が必要なのはこれからになりますが)。
 私自身も陸上競技をはじめた時期に陸上競技以外のものにも目を向けていたらなとか、競技結果だけでなく、そこにある友達との交流を楽しむことにも目を向けていたらなと思います。
 私も周りの大人から「辛いんだったらいつでも競技を辞めていいんだよ」とか、「競技が全てではない」といったことを言ってもらえていたら、自分を追い込むこともなかったのかなと思います。

<参考図書>
アスリートのメンタルは強いのか?──スポーツ心理学の最先端から考える/ 荒井弘和 他2名


<イラスト>
Loose Drawing

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